第2章 魔導書
酷く懐かしい声がする。
声変わりこそしているものの、その本質は焦がれていた記憶の中の恩人のそれと、全く同じで……。
私は目に涙を浮かべて後ろを振り返る。ようやく会えた、大切な人……!
「君、肌も髪もツヤツヤで綺麗だね。あまりの美しさに思わず見とれてしまったよ……。良かったらこのあと、オレとデートなんてどうかな?」
ん?
目の前の男は大袈裟に気障っぽいセリフを吐きながらこちらを見つめていた。茶色の跳ねた毛を揺らしながら、右手で灰色の円を作りその中からバラの花を一輪取りだしてこちらに差し出してくる。
その姿は朧気な記憶の中にあった少年とほぼ一致していると言っていい。特徴的な黒のローブは黒の暴牛の制服のようなものであるし、というか魔法がもうあの時見たやつと完全に同じなんだよ。
ところがセリフの方は記憶の中にあるものとどう頑張っても一致しない。アレ? 別人かな?
「おいフィンラルこれから入団試験だっつってんだろ」
本人でした。
私が何も反応を返せず固まっていると、そのままフィンラルは突然やってきた団長さんに無理やり担ぎあげられてどこかへ行ってしまった。
去り際に「綺麗なお嬢さんー! もし試験を受けるなら暴牛に来てねー!」とチョイ役の捨て台詞みたいなことを吐いていたのが僅かに聞こえた気がする。
「……なんかスゲー! 魔法騎士ってああいう人もいるんだな!」
多分時間にして数十秒の出来事だったが、得た情報量的には魔導書に触れた日より酷い。
「えーっとユノくん。どうして魔法騎士になるのかだったっけ?」
私は頭を抱えると、フフ……と不気味な笑みを浮かばながらユノの方を見る。
「たった今分からなくなったよ……」