第2章 魔導書
……手を、挙げてくれなかった。
「ど、どうしてですかヤミ団長……」
私がボソッと呟けば、青いローブに身を包んだ綺麗な女性がこちらを見た。確かシャーロット団長という人だったはず。
「なんだヤミの団に行きたいのか。この私が拾ってやろうと思ったものを」
(ヤミがいいなんてセンスある!! でもこんな可愛い子を彼の元に送り出せないうーーん!!!!)
なんだか心の声が聞こえたような……。
私の目的はヤミ団長というよりその後ろの人ではあるのだけど。
そのフィンラル当人は不安げにやり取りを見守っている。
「なんだオマエ、マジでウチがいいの?」
「はい。黒の暴牛に入ることがずっと前から目標でした」
「ふーんそんな奴いるんだぁ……」
それきりヤミ団長はこちらをじっと見るだけで何も言わない。
やっぱり戦闘が地味だった? それとも箒でジェットコースターしたのが原因??
ど、どうしようなにかした方がいいんだろうか。
「え、ええい……こうなったら最大の魔力でなんかすごいもん作ってやる!『夢の具現化』!!」
なんかすごいもん、出ろ!!
しかし具体性のない適当な指示でまともなものが出るはずもなく。
目の前に現れたのは……。
「ど、ドライヤー……」
ブオーン。
生暖かい風が髪をなびかせる。ドライヤーの動く音だけが鳴り響き、変な沈黙が会場内を支配していた。
き、消えたい……。
なぜここで、ドライヤー……。
「へー、風魔法も使えんのか」
沈黙を破ったのはヤミ団長の気の抜けた声だった。不思議そうに私の右手を指さしている。
厳密に言えばそういうことでは無いけれども、ある意味科学って魔法みたいなもんかもな。
「これはドライヤーと言ってですね。……あっ」
そんなことを言っていると最大風力でフル稼働していたドライヤーはあっという間に消えていった。
「オマエ、確かに何が何だかよく分かんねーけど優秀っぽいんだよなー。ただほら、ちょっとアッシー君の好みに近いから採用したくないんだよね」
「いきなり何言ってんですかヤミさん!?!!!?!」
横にいたフィンラルがいきなり椅子の前に身を乗り出してくる。文脈から言ってアッシー君とは、フィンラルのこと……?
彼も動揺しているあたり意外と図星のようだ。
「こ、好み…私が…」
どうしよう、嬉しい。