第2章 魔導書
その後の、記憶が無い。
呆然としていた私をアスタくんとユノくんがどうにか引っ張ってきてくれたらしく、いつの間にか会場には立っていたんだけれど。正直さっきのフィンラルがなんだったのかについて咀嚼するのにカロリーを使いすぎて全然話とか聞いてなかった。
「ナンパされたのがそんなに嫌だったんかなー」ってアスタくんの声が聞こえたけど、そうだけどそうじゃない。
会場は円形の大きな建物で、こう、中性風東京ドームみたいな……あんなでかくはないか。
上を見上げると7つの魔法騎士団の団長たちが堂々と座り並んでいる。後ろには各団1人ずつ団員が立っていて、右端の暴牛ではヤミ団長の後ろにフィンラルが立っていた。
「あの人がフィンラル……」
思えば前世でもこんなことはよくあった。同窓会でかつての同級生と久しぶりに会ったら学生時代とキャラ変わりすぎててびっくりするとか。
人っていうのは10年もあれば変わる。表層の部分なんて環境に合わせて様々な形に変形するものだ。でも、深いところにある本質はそう簡単にねじ曲がったりしない。
例えチャラ男になっていても彼の優しさは変わっていないはず……多分。
彼のこと、信じたい。助けてくれたのがあの人であることは変わりのない真実だもの。
そのためにはまずこの試験に合格しなくてはならない。黒の暴牛に入ってもう一度彼と話をするんだ。
気合を入れ、ぐっと拳を握る。
……と、その時。
突然周囲の受験者たちが一斉に飛び立った。
「え!? 待って全然話聞いてなかったけどみんな何してるのこれ!?」
突然現実に引き戻された私は周囲の状況に面食らう。
どうやら箒の扱いを見る試験らしく、みんな配られた箒にまたがって飛び上がったようだ。
ユノが試験者たちの頂点で悠々と立っているのが見える。なんだあの圧倒的オーラは……。一方アスタは最下層で地に足をつけて踏ん張っている。
「本当に魔力ないんだ……って言ってる場合じゃない。さすがにあれほどじゃないけど私も箒は苦手!」
それこそ50cmくらいしか浮けない。竹馬で歩いた方がマシまである高さである。
「どうしよう」
思わずフィンラルを見上げる。彼に見られているかもしれないのに情けないところは見せたくない。
「そういえばフィンラルの魔法ってどこ○もドアに似て……」
その時、私はピンと閃いてしまった。
