• テキストサイズ

ネジを弛めたサドルに跨がる瞬間【弱虫ペダル】

第2章 文学少女と荒北くん【荒北 甘】


想像してたより怖かった。なんだかいろいろビックリしすぎて心臓が動いてるのか止まっているのかそれすらわからない。
あぁ、でもやっぱり荒北先輩だ。目付きが悪くて口も悪くて、だからこそ不良たちを蹴散らしてくれた荒北先輩だ。

「わ、ワリィ…」
「え?」
「お前さァ、駅前のコンビニで働いてンだろ」

う、嘘だ…先輩が私のことを知っているなんて…

「ちげェの?じゃねェの?」
「そう…ですけど…」
「…ふぅん」

ふ、ふぅん!?聞いておいてふぅんて!?
窓を向いて頬杖ついて、顔はよく見えない。けど、チラリチラリとこちらの様子を伺って視線がぶつかると目を游がせる。よくわからないけど、もしかしたら私に用があってわざわざ来てくれたのかなって、変な期待をしたら顔が赤くなった気がした。

「チャンさァ、いつもこっから見てるよなァ。誰が目当てなワケ?」



不意を突かれた質問に今度は血の気が引く。バイトについてはともかくここから見てたのを気付かれてたなんて思わなくて、でもそうじゃなきゃわざわざこんなとこまで来ないだろうと納得したらいきなり名前で呼ばれた事なんて二の次だった。

「あ、の…」
「福ちゃん?東堂?」
「えっ…と…それは…」
「それとも、」
「あ、荒北先輩っ…」
「あァ?」
「で…ご、ごめっ…ごめんなさいっ!!」
「あっ!ちょっ!!待てって!」

堪えられない。馬鹿な事をした。明らかに迷惑そうな顔してたのにその上あなたを見てましたなんてよく言えたもんだ。穴があったら入りたい。入って鍵掛けて二度と顔を出したくない。

急いで鞄を持って図書室を出ようとする。緊張からか腰が半分抜けててまるでうまく動けない。けどぐっと堪えて席を離れると追いかけてくる音がして、ひゃぁぁぁ来たァァァ!!と心の中で叫んだ。あと1つ本棚を越えればドアだ。というところで、腕を掴まれ視界がグルッと変わり、本棚に押し当てられる。
ちょっと痛いなんてもんじゃない。棚が背骨に食い込んで、掴まれた手は顔の横に押し付けられて、それは声にもならない痛みで、思わず涙が出そうで困った。


/ 68ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp