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ネジを弛めたサドルに跨がる瞬間【弱虫ペダル】

第2章 文学少女と荒北くん【荒北 甘】


せめてチャンスがあればな、なんて自分からどうこうする勇気のない私は都合の良いことばかり考えた。そうやって何度も好きな人と距離を縮められず勝手に恋して勝手に玉砕するのを繰り返してきた。
高校生にもなれば変われると思った。それもまた都合のいい言い訳だ。こんなんだから、いつしか好きな人の隣には私じゃない女の子が並んでしまうというのに、相変わらず学習しない。

それでも、名前も知らなかった彼を見つけ出してどうにか名前を知ることができたのは今までで一番頑張った方なんだ。うん、私にしてはよくやった。偉いぞ、私。

心の中で自分を褒めて、閉じた本をまた開く。ジャンル的にはミステリーや自伝が好きだったけど、最近はもっぱら恋愛小説ばかり読むようになった。我ながら分かりやすいなぁと思いながら、プロローグを読み進めていく。

「ほら早く!」
「わっ!押すなバカ!!」
「いいから早く入りたまえ!」

珍しく図書室の入り口の方が騒がしくなった。なんだろう?と、顔を上げて棚で隠れたそっちを覗くと、ふと飛び出してきた人に一瞬心臓が止まる気がして思わず本で顔を隠した。

(なんで!?え!?なんで荒北先輩がいるの!?)

誰かに押されたようで、もたつく足をなんとか踏ん張ったとこまで見た。るっせ!バァカ!!と言った声は間違いなく荒北先輩その人で、これはとんでもないチャンスがきたのだと確信する。

(話しかけろ私!!今しかない!!自転車部の荒北先輩ですよねって!頑張ってくださいって!あ、でも迷惑かな。知らない人に名前も部活も知られてるって、キモいと思われちゃうかな)

一気に上昇した体温は頭をフル回転させたくせになんの解決にもならない。
そんな時だ。私の向かいの席に誰かが座るのがわかった。あぁぁぁぁ、絶対荒北先輩だこれ。なんつーオーラを醸し出してるのか威圧感が半端ない。

「へェ、こっからだとよく見えんのな」
「…」
「オイ」
「…」
「オイ!無視してんじゃねェ!!」
「は、はいっ!?わ、私でしょうか!?」
「テメェ以外に誰がいんだバァカ!!」






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