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ネジを弛めたサドルに跨がる瞬間【弱虫ペダル】

第2章 文学少女と荒北くん【荒北 甘】


「待てっつってんじゃァん」
「ごめ、なさ…あの、」
「あァ?」
「っ…!!」

そこでやっと気付いた。荒北先輩がこんな近くにいる。目の前には細身の胸元。それを徐々に上へ辿っていくと、あの荒北先輩の顔がある。
ふと目が合った瞬間、やっぱり先輩は目を游がせた。私変な顔してたかもって顔を反らしたけど、それでも体勢だけは変わらない。
どうしよう…とりあえず、さっきの事をなかったことにできないだろうか…

「あの、えっと…」
「そんな怖がらなくてもいいんじゃなァい?俺傷付くけど?」
「えっと…」
「あー、ワリィ。跡になってねェ?」

解放された手はまた血を流し始めてサーっとした感覚をさせる。くっきり先輩の手の跡を残していて、ばつが悪かったような顔でそこを親指で擦ってくれた。舌打ちをしながら…

「脆すぎんだろォ」
「あの、大丈夫ですから…痛みはないし…」
「つーかよォ…俺だったりしねェの?」
「え…?」
「だァかァらァ、ちゃんが見てる奴は俺じゃねェのかなァって」

見るとなんだか気まずそうな顔で、でもちょっと赤く見えるのは夕日のせいなのかもしれなくて、茶化してるだけなのかもしれないけど、誤魔化すようにさっきより擦られてる手首がだんだん摩擦でヒリヒリしてきて。
今の今までテンパってた頭は急に冷めてきた。

「なァんて、」
「先輩ですよ。荒北先輩のことを、いつも見てました」
「……ふぅん」

擦る指がピタリと止まって、なんの興味のなさそうな返事をされたけど、不自然なくらいに顔を背けて、覗き込もうとすれば見んなバァカって言われて。
まずったのかなって不安にもなったけれど、放してくれない手と、チラリと見えた笑顔を見たら、気持ちが踊って仕方なかった。

「ちゃんさァ…」
「は、はい」
「バイト帰り、危ねェだろ。送ってやンよ」
「はい!!」

初めて実ったかもしれない恋は、なんだかお互い不器用で、好きって気持ちを言葉にするのも、きっとまだまだ先になりそう。

「あの、今日は…ダメ、ですか?」
「…ったく、しょーがねェなァ!」

改めて手を繋ぎ直して、行くぞって引かれて、思わずニヤけてしまって、時々振り返る先輩と目が合って、プイッとそっぽ向かれて、けどそれは照れ隠しな感じで、

初めてヒロインになりました。


fin.
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