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ネジを弛めたサドルに跨がる瞬間【弱虫ペダル】

第2章 文学少女と荒北くん【荒北 甘】


放課後になるとそれぞれ部活や帰宅で、あっという間に校舎は静まり返る。遠くから吹奏楽の音が聞こえたり、校庭からは野球部の声が聞こえたり。3階の角にある図書室の、ひっそりとしたそんな空間が大好きだ。

アルバイトが休みの日には必ずここで読書しながら外を眺めた。あまり利用する人もいなくてほぼ貸しきり状態だから読書にはうってつけだし、何よりもここからは自転車部の部室が見える。だからもちろんあの人もいるはず、だったけど。

「今日は休みかぁ…」

荒北先輩は気分屋なのか必ずしも部活に出てるとは限らないし、遅れてきたり早く帰ったりもたまにある。けど今日は部活自体が休みなようだ。部室周辺は閑散としていて自転車は一台も見当たらない。今週の平日で休みは今日だけだったのに、モチベーションが下がっちゃったな。
せっかく借りた新刊も開いたところで読み進める気が完全になくなって、本を閉じながら目当てのいない外を眺め続けた。いつもはわらわらと自転車部の人達が練習に出ていく裏門も閉じたままだ。

(寂しいなぁ…)

仲が良いわけじゃない。まともに話したこともないし、きっと彼は私のことなんて知らない。先輩だし、店員とお客さんだし、目が合ったのだってバイト初日に店の前でたまってた不良を蹴散らしてくれた時のたった一度。一目惚れした瞬間だったから、それはよく覚えている。

それからは部活帰りに必ず立ち読みしてパンを1つ買って行く彼を目で追った。同じ箱学の制服だったから先輩もしくは同期生だとすぐにわかったけどなかなか見つからず、やっと見つけた彼が自転車部だと知ったのは入学してから2ヶ月程経ったあたり、この場所でだった。
もしかしなくてもその人だと一目でわかる。よく一緒にいる金髪の人とカチューシャの人がいれば確信に変わった。

かといって話しかける勇気もないし、ただここから眺めて目の保養をしていたわけで、よくよく考えたらこれってストーカーと同じかもしれないと思ったらもう項垂れるしかなかった。




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