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ネジを弛めたサドルに跨がる瞬間【弱虫ペダル】

第9章 雫 【手嶋】


私の身長に合わせて屈んでくれてるから顔が近い。いつもは通らない路地裏に入ったのはわかったけれど、ここが何処かはわからないままついていく。

「笑っちゃうな、この雨」
「うん、ね」
「もうすぐだから、て、ぁぁぁっ!?」
「きゃぁっ!!」

突然の強風に傘がひっくり返って飛んでいった。思わず手を伸ばして追いかけようとしたけれど、それとは逆に手嶋君は私の手を握り慌てて走り出した。
そして数メートル先の一軒家に入る。当たり前のように鍵を開けて、当たり前のようにドアを開けて、背中を押されて入る私に続いて手嶋くんが入ってくると、さっきの雨音が少し静かになった気がした。

「プハッ!!コントみたいだ!」
「手嶋くん、ここって…」
「俺んち。待って、タオル持ってくるから」

よくある住宅街のよくある佇まいの家だった。けれど玄関に手嶋くんのであろうロードバイクが置かれていても狭く感じない。とても手入れが行き届いていて綺麗な自転車に思わず手が伸びた。近くで見たのは初めてだけどホント、どうやって乗るのってくらいシンプルで複雑。

「寒くない?」
「ううん、大丈夫」
「ごめんな、頭も濡れちまって」
「私こそごめんなさい!手嶋くんまで濡れちゃって…」
「いいんだよおもしろかったから。適当に拭いたら上がって」
「だ、大丈夫!!濡れたついでだしこのまま、」
「ダメだ。風邪ひくし、透けてるし?」

わたされたタオルで頭を拭きながら、ふと見下ろすと濡れたシャツが張り付いて下着が透けている。咄嗟に隠した私を見て手嶋くんはまた笑った。

「ほらおいで」
「お、お邪魔します…」
「あぁ、今誰もいねぇから気にするな」

別に期待はしてないですけど、誰もいない家に女の子を連れ込むなんて…なのに本人はごく普通で、それはそれで少し気に病むというか。
2階の部屋に案内されて、部屋の雰囲気からしてそこは手嶋くんの部屋で。クローゼットから出されたジャージを手渡された。

「着替えなよ。俺ので悪いけど」
「あ、ありがとう」
「俺は隣で着替えてくるから」
「は、はい」







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