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ネジを弛めたサドルに跨がる瞬間【弱虫ペダル】

第9章 雫 【手嶋】


今日は雨が降る。わかってた。雷雨を伴う夕立があると。
だから傘は持ってきたし、盗まれないよう分かりやすいよう真っ赤な傘にした。なのに置いたはずの場所にない。周りを見ても見当たらない。致し方なく、私の傘は誰かの役にたってしまったようだった。
これは困ったぞ。豪雨でも雷でもないけれど、さすがに防具無しで飛び出すには勇気がいる。でもまぁ、濡れてしまえば諦めつくだろう。そう思って一歩踏み出した時だった。

「傘、ないのか?」
「あ、て、手嶋くん」
「いいよ、入ってけよ」

サラッと誘われ、隣で傘を開いて半分空けてくれた。ラッキーなんてそんな軽い気持ちにはなれない。1年の時同じクラスになって、その時はクラスメイトとして仲良かったけどクラス替えしてから関わらなくなってしまったし、いつも青八木くんがいるから話しかけ辛い部分もあった。遠くから時々見かけてガッツポーズする日々だったのに、今は、こんなに近くにいるなんて。

「なんか久しぶりだなぁ」
「そうだね」
「は電車通だったよな?」
「うん、二駅だけどね」
「なら駅まで送るよ」
「そんな!いいよ、雨強くなりそうだし」
「遠慮すんなよ。せっかくの休みだからさ」
「きょ、恐縮です…」
「ハハッ、相変わらずだな!」

嬉しいな。久しぶりにしゃべって、しかも相合い傘で、こんな雨だけど凄く、凄く雨が好きになった。他愛もない話をして歩くうちにだんだん雨が強くなっている。学校を出て5分程。駅まで歩くとあと10分はかかるし、場所こそは知らないけれど手嶋君の家は近いはずだし、やっぱり送ってもらうのは悪い気がしてきた。

「ねぇ、やっぱり私…」

言いかけたのを遮るように一瞬にして豪雨にかわった。これには二人驚いて思わず肩をすくめる。傘も虚しく、風も吹いてきて横殴りの雨が頭以外を濡らした。立ち止まってしまった私を心配したのか、傘を持ち替えて肩を抱き寄せる。こんな時なのに私の心は晴天だ。

「すごいな、大丈夫?」
「あ、うん」
「ちょっとこっち」

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