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ネジを弛めたサドルに跨がる瞬間【弱虫ペダル】

第8章 箱学自転車部は今日も平和です【泉田】


咄嗟に泉田くんの右手を掴んで自分の胸元に押しあてた。私を見る泉田くんは慌てて手を引こうとするから、負けじと力を入れて尚且つ身を乗り出す。
正直自分でもなにやってんだかわからない。けど頭に血が登ったんだと思う。私が何を言ってもその真意に気付いてくれなくて腹が立った。かといってなんて言ったらいいかもわからなくて、それ故の行動だったけど、私は間違えただろうか。

「ちょっ…さっ」
「泉田くんは何もわかってないよ」
「あの、手を、」
「好きじゃなかったら触ったりしない。泉田くんは好きでもない子を触ったりする?」
「そんなことっ」
「好きな子に触れたいと思わない?」
「いえ、あの、思う、けど」
「じゃあ、」
「違います!違うんです!僕は、確かに触れたいと思うけど、こういう形よりも先に…抱き締めたい、です…」

そっと延びてきた左手に抱き寄せられて、厚い胸元に包まれると今まで感じたことがないくらいに高揚する。もっともっと包まれたい。窒息するくらい強く抱き締められたい。自ずと私は泉田くんを押し倒して、それでも足りなくてどうしようもない。どうしたら満足できるのか全然わからない。

「ちょ、さん、落ちますよっ」
「落ちないように抱き締めてっ!」
「さんっ」
「もっと、もっとギュッてして」
「あなたって人は…」
「好き。泉田くん好き」
「僕もですよ」
「もっとギュッてして、絞め殺すくらい」
「ハハッ、わかりました」

異様な光景かな。けど、こんなに幸せなのは初めてだ。

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