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深空の幻【恋と深空】

第11章 月夜の華炎③【セイヤ】R18






ホムラは駆け引きや自分の立ち位置を充分に弁えている。そう長くはない時間を病室で過ごすと毎回、彼はアリスが負担に思わない頃合いで 去ってゆくのだ。


だがその上で都度、自分の気持ちをさりげなく主張する事も忘れてはいない。



(しかしこんな形で自分の "想い" を表現してしまえるのは、ずるい──…)



才能溢れる画家は、"この絵" に関して特に言及することはしなかった。だが伝えたい想いは確かに この中に全て込められているのだろう。


特に芸術志向でないセイヤにすら、それが伝わって来るのだから。


きっとこれを見せたいが故に ホムラは今回の個展に彼女を招いたのだろう──…自分には出来ない、なんともロマンチックな演出だ──



(───まぁ鈍感な彼女が、

その意図に気づくかどうかは甚だ疑問だが…)



穏やかにアリスを見守るレイもまた、彼には脅威だった。ホムラと言い、レイと言い──…確かに気を抜けば あの2人のどちらにも、横から彼女を持っていかれそうな危機感がある。


だがセイヤ自身、あの屈託のないホムラの気性を そして生真面目な程優しいレイの気性も──…どちらも 嫌いにはなれないでいた。


不思議な魅力が両者にはある──…そんな2人の魅力が当然、アリス自身の心も惹きつけているのだろう。


幸運なことに、自分は今 アリスの恋人だ。
だが言いようのない歯痒さがセイヤの胸に込み上げて来る。



『──セイヤ?』



画集を手に無言のままのセイヤに アリスが首を傾げる。彼はモニターの電源を落とすと、手にあった画集を彼女の目に止まらぬようそっと傍に伏せ置いてしまった。



『え!?月影ハンターの特番
まだ終わってないのに──!』
「──いいだろう?
"本人" が目の前にいるんだから」



──静けさが屋内に訪れ窓の外から入院患者であろう、子供のはしゃぐ声が聞こえて来る。だが彼の胸にはその無垢で朗らかな声とは対象的な、醜い嫉妬心がぐるぐると渦巻いていた。


セイヤは、どこか仄暗く艶めいた視線を膝元のアリスへと下とし、そっとブランケットの隙間から手の平を滑り込ませていった。



『え……セイ、ヤ……?

──…ぁ……っ』




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