第10章 月夜の華炎②【セイヤ】
はっと降り仰いだホムラの背後に先刻彼女を置き去りにしたあの男 "セイヤ" が立っている。
「片付けてきた──…だって?」
ジジ…
その時、アリスの手首に嵌められているハンター探知器が再び赤い光を放ち、先程とは真逆のミナミの安堵と歓喜の混じった声を告げた
「沿岸部一帯のハンターに告ぐ。
特異エネルギーの波動は無事消滅したわ。
出現したワンダラーは全て"月影ハンター" によって殲滅された。
皆 彼の迅速な対応に感謝しましょう
お陰で被害は最小限に抑えられた。
──…引き続き現場のハンターは怪我人の誘導とイベント復興の為に 最大限の支援を…」
その音声と共にアリスの唇がゆっくりと弧を描いてゆく。恋人への誇らしい想いと共に、聞こえて来る周囲の興奮した声がアリスの喜びを更に後押ししていった。
「月影ハンターが現れたって?!」
「ああ、なんでも停電中の闇に紛れて、
あっという間にワンダラーをやっつけちまったらしい」
「え!?そりゃ本当か!?
じゃあ 彼の顔を見たやつがいるのか?!」
「馬鹿、こんなこと出来るのは、
月影ハンターくらいのもんだろ?」
アリスはセイヤに無意識に手を伸ばす。セイヤはホムラの腕からアリスを受け取ると安堵した様子でそのこめかみに口付け 強く彼女を抱き締めたのだった。
ホムラはそんな2人の様子に小さく溜息を吐く。
「へぇ、月影ハンター
…それって確か、アリスがえらく推してる伝説のハンター…──だよね?
ふうん
……どうやら僕の事を" 君 " は随分と信用して、この子を任せてくれた…って事なのかな」
「………。
" 有名人 "のあんたの事は
俺も少なからずは知っている
腕が立つってことも、
彼女があんたを信頼しているんだろうってことも
…だから"下心の有無"はともかく、
あんたなら 確実に守ってくれるんだろうと思った
──…彼女を無事 ここまで避難させてくれた事、感謝する」
そう言ったセイヤがホムラに穏やかに手を差し出すと、2人はアリスの目の前で硬く握手を交わすのだった
「…言ったでしょ
別に君に頼まれなくても僕は彼女を守ったよ
はぁ…
どうやら今回
僕はとんだ "当て馬役" を 引いてしまったみたいだね」