第10章 月夜の華炎②【セイヤ】
「アリス──…
お願いだからこんな事で…
みっともなく くたばったり、しないでよね…」
ホムラが悲壮な声でそう呟いた刹那、彼女の瞳が薄ら開く。その視線はゆらゆらと虚ろに動いて漸く彼を捉えたのだった。
『…ホムラ…?
…なんで───…?』
アリスはだがその時すぐには事態が掴めないのか、訝しげに彼を見て 小さく口を開いた。
「君──…良かった!
気がついたんだね」
『…あなた──…
………また………
────…そんな泣きそうな顔…』
だが次に彼女から出たそのセリフに ホムラは焦って顔を逸らす。
彼は勿論泣きそうな顔などしたつもりはなかった。だが恐らくは先程も今も無意識の内に出てしまったであろう自分の感情に、言いようのない羞恥を覚える。
とは言え今は目の前の彼女が意識を取り戻した事にただ安堵していた。
「き、君が
こんな事になっているからだろう──…?!
それに…
起き抜けにまじまじと
…僕の顔を見るのはやめてよ」
『そんな事言われても
………………顔 近いし』
アリスはそうして目前で顔を赤らめ 泣きそうな顔をしているホムラに対し だがその後なんと言って良いのか分からず、無意識に言葉を飲み込んだ。
しかしその後すぐに事態を思い出し ハッとして身体を起こす。
『くそ…、ぬかった!
っ……ていうか私──っ、
すぐにでも戻らなきゃ!
こんなところで休んでる場合じゃ…って──…
──…痛っ〜〜〜〜〜!!』
「はぁ…君────…
もしかして馬鹿なの?
その怪我ですぐに動けるはずがないでしょ?!
……いいから大人しくこのまま治療の順番を待ちなよ
せっかく僕が苦労してここまで運んであげたんだからさ。
…それに…君の薄情な恋人はこんな中 、君を僕に平然と託して去って行ったんだよ
────…覚えてる?
君はそんな恋人に何か思う事はないのかい」
『──セイヤが…?』
不貞腐れた様にそう言ったホムラに、アリスはだが躊躇なく首を振り 気ますげに瞳を伏せたのだった。今は目の前の友人に向き合うべきだろう。意を決したアリスは口を開く。