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深空の幻【恋と深空】

第10章 月夜の華炎②【セイヤ】





────…



ホムラは腕の中に今 この世の全ての宝を集めても叶わない大事なモノを抱えていた。それは今日から開催される自身の個展などとは比べ様にならない程の重要さで 今彼の心をこの場所に縛り付けている。


例え彼女の恋人に託されたという前置きがなかったとて───…彼はきっと、それをなんの躊躇もなくやってのけただろう。


汗に塗れるのは大嫌いな彼が 今全身をドロドロにしながら腕の中のアリスを守り、ワンダラーを退け そしてそれでも飽きたらず 起きていたら彼女が望んだであろう、人々の避難誘導までを率先してフォローしていた。


それ程に、ホムラはアリスを
気が付けば心から愛し、尊重していたのだ───…


そして皮肉な事にそんな自身の燃える様な愛情に気付かされたのも、予期せぬ恋敵の出現がきっかけだった。


ホムラ自身は燻り始めたこの想いを
この先で時間をかけ ゆったりと育むつもりでいたのに…その全てが台無しだと思った。何故ならそうしてホムラがちんたらしているうちに、目の前のこの愛しい人はまんまと…先程会った あの"薄情な男" に心を持っていかれてしまったのだから。


そうして暫く後
彼は必死の想いで緊急医療班のテントへと辿り着く。


だがまだ人の行き届いていない医療現場では、最重症患者が優先されており ホムラは溜め息と共に 腕の中に愛しい身体を抱きしめたまま、その場にへたり込んだ。


意識を失った彼女の身体からは止めどなく真っ赤な鮮血が滴り落ち、素人の付け焼き刃の応急処置も虚しく彼自身の身体にもその赤色が移り込んでしまっている。


一体どうしてアリスの恋人は こんな状態の彼女を前に、それでも戦闘に向かうなどという酷薄な判断を下せたのだろう。
全く──ハンターなんて人種は…
恐らくこの先も到底、彼の理解が及ぶものではない。




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