第10章 月夜の華炎②【セイヤ】
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その日、10日ぶりの非番だったレイは 自身のトレーニングの為 自宅付近のスポーツジムにいた。トレーニングを終え シャワーを浴びた彼が着替えを終えたその時、彼のスマホに 唐突な緊急医療要請が入った。
手に取った端末の画面に素早く目を通したレイは、直後眉間に深く影を作る。そしてそのまま身支度もそこそこに 荷物を掴み取ると…彼らしからぬ慌ただしさで 風のように その場を後にしたのだった。
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「あのっ、レイ先生──っ
い──ッ、今どちらにいらっしゃいますか?!
今院内は、この騒動で 大混乱でして…っ」
十数分後、自動通話でメットのスピーカーからスマホの音声が聞こえてくる。そこから慌てた様子のセキの声がまるで怒涛の勢いで発せられた事に レイは少々辟易していた。
混雑した中動きにくいだろうと車をジムの駐車場に置いたまま、レイは今 ジムの知人から借り受けたバイクを街中で走らせていた。車や通行人の間を縫うように…だがハンドルを向けた行先は要請先のAkso病院ではなく、現場の沿岸部だった。
「私は直接沿岸部へ向かう
────恐らく現場は非常に混乱しているはずだ。
指揮する人材が必要だと判断した」
「え、直接、沿岸部へ…っ?!」
「セキ、院内ではお前が指揮を取れ。
───…しっりしろ、
今は緊急事態の真っ只中だ、
目の前の患者に集中するんだ
いいな?
…もう切るぞ──…」
「えっ!?は、はい!!
って───…え?!ぼ、僕が指揮を?!
ちょ、待っ、れ レイ先生──!?」プツ。
徐に通話を中断したレイは
直後 その鋭い視線を 行く先の 黒煙が上がる沿岸部へと向ける。
今夜 臨空市 花火大会が開催される予定だったその場所へと──…
(アリス…────
確かあいつは今夜──このイベントに参加していたはずだ。
────くそ、
なんだってこんな日に…っ
…頼む…どうか、無事でいてくれ…っ)
その時いつもは冷静なレイの額から 一筋の汗が伝い落ちる。
だがすぐ───…
それは走る風によって、彼の後方へと霧散した。