第9章 月夜の華炎①【セイヤ】
─────………
『ねぇセイヤ────
今……確かに泣いてたよね、
────…ホムラ………
………一体、どうして…』
アリスの言葉にセイヤは気不味そうに頭を掻いている。
「さぁ、
俺の角度からは彼の表情はよく見えなかった。だが
────俺が思うに 例えそうだったとしても、彼はあんたに その事をあまり 深くは追求して欲しくないのかもしれない」
『──…そういう、もの なの…?』
「………」
『………』
2人の間を いっときの沈黙が通り過ぎる。
アリスはホムラのあの表情と 最後の言葉の意味を考えあぐねていた。しかしいくら鈍感な彼女でも あんな言葉と態度を目の当たりにすれば 嫌でも気付いてしまう。
まさか────…と思った。
でもそう、これが彼女の勘違いでさえなければ────…きっと、ホムラは…。
だからこそ 彼はきっとこの"カップルの為のイベント"に拘り 何度も彼女に声を掛けてくれたのかも知れない…そう思い至った直後 アリスは酷く混乱してしまう。
何故なら彼女自身も 眉目秀麗で人懐こいホムラに全く惹かれていなかったと言えば嘘になってしまうからだ。
───…そしてそう考えれば、ホムラを知らぬ間に深く傷付けていたかも知れない自身の過去の言動に 人知れぬ強い後悔が押し寄せてくる。
「…────アリー
まさか彼を、追いかけたいのか?」
その時 再びセイヤがギュッとアリスの手を握った。無意識の内に大切な友人を傷つけていたかも知れないというその事実に アリスの胸は今 どうしようなくざわめいていた。でも追いかけたとて、今の彼女に一体 彼に何を言う資格があるのだろう。
今目の前にいる
世界で1番愛しい男性を前に
アリスは強く拳を握り締めた。