第9章 月夜の華炎①【セイヤ】
遠慮がちに話に割って入った恋人の言葉にアリスはハッとしてすぐ頷いて見せる。すると先程の提案があったからか セイヤは繋がれた手をごく自然と離してくれた。だが彼はまるでホムラを伺う様にアリスの背後に悠然と立つ。彼女の気のせいだろうか、何故かそこから薄らと圧を感じるのは…
『え───…と…』
思いがけぬ張り詰めた空気に アリスは人知れず内心で冷や汗をかき始めていた。そんなアリスを見て ホムラは漸く 諦めたように溜め息を吐く。
「……はぁ、はいはい わかったよ。
この構図──…これじゃあまるで僕が君を虐めているみたいじゃないか…
大丈夫、僕だって ちゃんと理解しているつもりさ
君達ハンターは いつだって メッセージの返信すらままならないくらいに 常に多忙なんだ──って事はね」
だが目を逸らしたホムラにアリスは一気に申し訳なさが込み上げてくる。何とか彼の機嫌を取ろうとつい前のめってしまった。
『ごっごめんホムラ!
その、でも今日はどうしても
外せない用事があって…』
「そう…
───まぁ……仕方がないよね
今日は臨空市でも有数の
……"カップルの為の"イベントだし
そんな日に"君"を誘うなんて
……僕の方こそ
無粋だったのかも知れないよ」
ぼそりとつぶやかれたホムラの言葉は どこか拗ねたような声色で…だがアリスはそんなホムラの僅な感情の機微に気付くことのないままにパッと照れたように大袈裟に手を振り返すのだった。
『あ──…誤解しないで!
用事っていうのはこの後にある
ハンター協会主催の"新人歓迎会"の事だよ』
するとそう言った途端
背後でセイヤが大きな溜息を吐く。