第9章 月夜の華炎①【セイヤ】
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イベントのせいか、今日はいつもの休日以上にモール内は人でごった返している。周囲が高揚した雰囲気の中 2人もいつしかそれに馴染んで店内の散策を心のまま楽しんでいた。互いに指を絡めて、目が合えばセイヤが微笑んでくれて…思えばこんなカップルらしいひと時は初めてでアリスは益々浮かれてしまっていた。
アリスがセイヤの腕を引っぱって一緒に点在する店を見て回る。暫くそうして楽しい時を過ごした後にそろそろ丘へ戻ろうと2人が出口へ足を向けたその時だった。すれ違う人混みの中に、アリスの見知った顔が見えた気がした。
『あれ──…ホムラ───とトウさん?』
その1人はアリスの友人でもある新進気鋭の画家、ホムラ。人混みの中でも一際目立つ容姿をもったその彼は 様々な要因が重なって最近彼女と親しくしている人物だ。ホムラはハンターでこそないものの優秀な evoler で時にアリスと共闘する事もある。そしてもう1人はホムラの親友 トウ。彼を補佐するマネージャーのような存在だ。ホムラ程ではないものの彼とも時折り交流があった。偶然の出会いにアリスは彼らに笑顔を向ける。
「君──…っ」
「あれ────?
やあ、アリスさんか」
だが朗らかに笑顔を返してくれたトウのすぐ横で出会い頭に驚いた顔を見せたホムラは どういう訳か直後不機嫌そうに顔を歪めた。そこにはいつもの飄々とした朗らかさのかけらもなく、怪訝に感じたアリスは少々首を傾げてしまう。