第9章 月夜の華炎①【セイヤ】
『だとしても今夜絶対に
ワンダラーが現れるとは限らないでしょう』
ムッとしたアリスが軽く睨みながらそう上げた声にセイヤは応えるよう小さく片眉を上げる。言い争うつもりはないのだろう。その態度は常の彼らしくあくまでも穏やかだった。
「だが…絶対に現れないとも言い切れない」
周りの同僚達もセイヤの意見に同意する。今日の会は大多数のハンターが参加する為仮面警護と言う名目があるのは致し方ない。とは言え完全なる無礼講ではないというその場に、少なからぬ新人の皆が辟易しているのだろう。
だがアリスはそんな中でも今回のイベントを最大限楽しみたいと思っていた。何故ならばこんな風に同僚達が皆揃ってお酒や食事を囲う機会など年間を通してもほぼ 他にはないからだ。
『じゃあ現れたならさっさとそいつらを殲滅すればいい。そもそもこれだけのハンターがこの場に雁首そろえてるんだから、楽勝でしょ!?
そうすればその後で、思う存分花火でも食事でも楽しめるはずだよ』
こんな時には嫌でも前向きになるアリスの言葉にセイヤは優しく双眼を細める。柔らかく微笑みながら艶のある彼女の髪を一筋 指で絡めとった。愛しい人を見る視線をセイヤは存分に彼女に注ぎ込む。
「分かった。
もしそうなったなら真っ先に戦闘に赴くと約束しよう。だからせめて今だけは、ひと時の休息に付き合ってくれ
……知っているだろう?
本当はこの花火大会には、
俺はあんたと2人きりで来たかった。
それくらいのわがままは聞いてくれ」
『……っ』