第8章 煩悶の渦中へ③【レイ】R18
「私は慈善家ではない
慰めや同情で女性を抱くことなどあるわけがないだろう」
レイはそんなアリスの顎をそっと掴むと
瞳を伏せゆっくりと彼女に顔を近付ける。最早愛おしさが抑えられず レイは今直ぐにでも彼女に口付けたい衝動に駆られていた。
『でも少なくともあなたは目の前で困っている患者さんをむざむざと見捨てるような人ではないでしょう────だから 私……っ』
だがアリスは引き続き混乱している。吐息だけが唇に触れる距離で止まったレイは、そこでふっと口元を緩ませた。
「だとしても今回の"患者"の定義に、それは当て嵌まらない。"抱いてくれと迫ってくる人間"など、せいぜい症状に合った担当医に割り当てるのが関の山だ」
ともすれば意地悪とも取れるそんなレイの言葉にアリスは少々たじろぎ始める。
『う………でっ、でも────…
レイはいつだって私の事…っ、子供みたいに軽くあしらって……私の事なんて微塵も相手にしてないって、そう、思ってたから……っ』
気持ちを確かめ合って、今は自然に口付けるタイミングだとレイは思っていたのだが────…目の前でコミカルに目を白黒させているアリスを前に、まんまとペースが崩されてしまう。
「……ハァ……そういうところだぞ」
(全くコイツは────…
平常時では口付けるタイミングすら推し量れないとは)
全くムードを読めないアリスに、レイは思わず呆れた心中を声にする。
「だから奇行に出ざるを得なかったと?」
更に意地悪くそう言ったレイの言葉にアリスは遂に分かりやすく慌てふためいてしまった。そんな姿にとうとうレイは我慢出来なくなり、珍しく小さく声を上げ笑う。だがその後優しく瞳を細めたレイは、そっと触れるだけの小さなキスをアリスの唇に落とした。