第8章 煩悶の渦中へ③【レイ】R18
「アリス
────お前の症状は
もう治ったのだったな?
取り敢えず "今日のところ" は」
『え…う、うん』
啄むようなキスの合間にレイがゆっくりとそう囁く。何処か満足そうなその瞳には鈍感な彼女ですらも理解出来るような深い愛情が込められていて…アリスはそんなレイから目を逸らせなくなっていた。その瞳に見つめられるだけで心の中を何か暖かいものが満たしていくのが分かる。
「だとしても────…
今夜すぐに眠れるとは思っていないだろう?」
『…あ…』
突然掛けられていたブランケットが床に落とされ、アリスの白い肌が露わになる。呆然とする彼女を見下ろしたレイは、再びネクタイに手を掛け次いでシャツのボタンを一つずつ外していった。一枚、また一枚と衣服を脱いで行くゆったりとしたその仕草に、筋肉質な身体と纏う圧倒的な大人の色香に、アリスは密かに息を呑み目を奪われるしか出来なくなる。この後行われるであろう目眩く大人の世界は、正直今の彼女には刺激が強過ぎた。
『ちょ、ちょっと待ってレイ
…ここ病い…っ、せ せめて場所を変え…
「────…良いからもう黙れ」
だが弱々しい抵抗はあっさりと打ち消され両の手がレイに捉われてしまう。
「なにを今更
────安心しろ
誰かが来るような抜かりを
私がするとでも思っているのか?」
次にアリスに降って来たのは避けることが許されない深く濃厚な口付けだった。手首にもう枷はないはずなのに抵抗の意思は完全に奪われてしまう。いつしか彼女の鼓動は期待と不安で大きく早鐘を打ち始めていた。
いくつもの夜を乗り越え、遠回りをした2人は漸く本当の意味で今夜結ばれようとしている。力を抜いた彼女のその覚悟をレイはいち早く察していた。世界中で1番愛しい肌に顔を埋めながら、その時彼はこの数ヶ月で1番晴れやかな気分になっていた。
恐らく今夜は快晴の空に 満天の星が輝いている事だろう
「やられっぱなしだった散々な借りを
──…これからは、たっぷりと返していく事にしよう」
fin.