第8章 煩悶の渦中へ③【レイ】R18
彼女なりに罪悪感に苛まれているのだろう。嗚咽が込み上げてきたのか言葉も途切れ途切れだった。両手が使えていたら彼女は間違いなく、このタイミングで顔を覆っていただろう。アリスの頬を止めどなく銀色に光る涙が伝って行く。
「アリス、
私の事が────"ずっと、好きだったから"
……もしかして今そう言ったのか?」
レイはどうしても、彼女からその言葉をはっきりと聞きたかった。どうしても確認したかった。何故ならそれこそが、彼がこの数ヶ月何よりも望んでいた事だったからだ。
『……っ』
ビクッとそれに反応した彼女は、更に顔を赤く染め 羞恥で膝に顔を埋めてしまう。その恥じらう姿は先程まで妖艶にレイを誘惑していた人間とは到底、同一人物には思えなかった。だがその態度こそ、彼女の答えそのものである様に感じられ、レイの心は途端に暖かいものに包まれていく。レイはアリスの涙を優しく拭うと、両手で頬を包み込んだ。
「ではなぜ私を避けた?
後悔したわけではないのだろう?」
恥じらうアリスをレイは逃がさない。
『──ぇ……っ
────…だ、だって………っ
……顔なんて……合わせ、られるわけがないよ
────…ずっと、"好きだった人"に、
あんな…っ、自分勝手に、"一方的な"気持ちを押し付けて…
……私は……っ、貴方の気持ちも考えずに
「お前が好きだアリス」
ようやく聞けたアリスの言葉にレイは心底安堵していた。同時に抑え切れないほどの歓喜が込み上げてくる。
『…………え───…?』
「私もお前が好きだ。故に一方的ではない」
だが間髪入れずに返したレイの思いがけぬ告白に、アリスは素っ頓狂な声と共に今度は驚きで顔を上げる。呆気に取られたまだあどけないその顔を、レイは心底愛おしいと思った。