第8章 煩悶の渦中へ③【レイ】R18
『えっと……レイ……
………これ、は?』
暫く後遠慮がちにアリスが言葉を溢す。
だが返ってきたレイの言葉は実に淡々としたものだった。
「見て分からないか?手錠だ。
今夜はお前を、逃すつもりはない
───という私なりの意思表示のつもりだが
まだお前の満足がいかないようなら
このまま先程の続きをしても構わない」
『……っ』
アリスは再び押し黙る。首に聴診器を掛け直し、流れるようにアリスへと視線を向けたレイは、そのまま彼女に向かいゆっくりと膝を折った。
「───何故定期検診に来なかった?」
『…そ、れは…っ』
「私を避けるという目的があったとしても
他の医師を指定して、検査を受けるという選択肢もあった。
病院で私と顔を合わせる可能性すら、
避けたかったと言うことか?」
目を逸らすアリスの顎をそっと掴み、
レイは引き続き淡々と瞳孔を確認する。
『………っ』
「ふむ、言葉が通じているようだ。正常な思考に戻ったのだろう?
こちらを向け」
その時アリスの瞳に薄らと涙の膜が張った。
「漸く"お前"と話せるな、アリス
私はこの時を長い事待っていた」
──────…
瞳孔を入念に確認され、いくつかの問診を受ける。アリスはこの茶番に我慢がならず、分かりやすく彼から顔を背けた。
『"私は私"。
……べつに中に別人格なんていないよ』
「ほぅ、それもまた興味深い仮説の一つではあるがな」