第7章 煩悶の渦中へ②【レイ】
同日夕刻────…
アリスは仕事に没頭して全てを忘れたかった。考えた言い訳などどれも陳腐で、とてもまともな文章など打てそうにない。だがそんな日に限って定時に上がれてしまい、彼女は帰宅途中の電車内で漸く、おずおずと鞄からスマホを取り出し 画面と睨み合った。
そして半ばやけになってレイに返信をする。兎に角今は会えない、顔を合わせるなんて出来る訳がない。それだけを伝えようと素早く画面をタップした。
《あんなみっともない姿を見せて、とても会う勇気がないです。
……何故あなたは私を責めないの?》 未読 18:51
思った事をそのまま打ち込んで、勢いで送信をする。送ってから硬くなっていた筋肉がほっと緩んだのを感じ 漸く自分がたった2行の文章を送るのに随分と緊張していた事に気が付いた。
流石に今度は直ぐには既読はつかず、それに何処かで彼女は安堵してしまうのだった。この時間 レイはいつも忙しい。手を離せる様な職場の状況ではないだろう事は何処かで予見していた。そして再び現実逃避をする様にアリスはスマホを鞄に放り込むと瞳を閉じ、電車の振動に身を委ねたのだった。