第7章 煩悶の渦中へ②【レイ】
彼女はスマホをデスクの上にパッと伏せ置くと、動悸を鎮めようと硬く瞳を閉じた。だがすぐ再びピコンという音と共にデスクが振動する。動悸は治るどころか益々強くなる一方だ。まさかもう、レイから返信が来たのだろうか?アリスは動揺する気持ちを何とか鎮め、ゆっくりと画面に目を落とした。
《謝るな
回復したのなら安心した。
ところで 次の休みはいつだ
昨日のお前の症状について、
色々と聞きたい事がある
………会って話したい》 11:08
『レイ…』
それは責任感あるレイの医師らしいメッセージ。だが引き続きの端的な文章の中に、彼なりに彼女に気を使わせまいとする小さな気遣いを感じアリスは思わず涙腺が熱くなってしまった。
ただ単に、昨夜の彼女の異常な行動を心配しての言葉なのだろう。そして昨夜は結果的に彼女を宥めるためやむなく 関係を持ってくれたのかもしれない。それは分かっている。
────…だとしても、レイは優し過ぎる。
アリスはスマホを鞄に放り入れるとやり切れない思いと共に立ち上がった。
『レイったら…
なんで一言も────私を責めないのよ…っ』
そのままその日は何もかもを忘れる様に
再び仕事に没頭するしか出来なかった。