第7章 煩悶の渦中へ②【レイ】
────ピッ
意図せずごくりとアリスは唾液を飲み下した。心なしか緊張でスマホの画面に触れる指先まで震えてしまっている。
《まさか挨拶もなく消えるとは
……目を覚まして驚いた。
先程まで雨が降っていたようだが、
無事に帰宅出来たのか?
今の体調はどうだ?》 6:21
そのメッセージは、突然消えたアリスを暗に攻め、だが同時に体調を気遣うものだった。彼らしい短い文章に目を通した後、アリスは倒れ込む様にダイニングの椅子に浅く腰を落とし、そのまま長い溜息と共にテーブルに突っ伏してしまう。
『───あぁ、なんて事……っ』
あれはやはり夢などではなかった。アリスはもう その場で叫び出したい気分だった。だが一夜明け冷静な思考が戻った今の彼女には、最早昨夜の行動を取り繕う言い訳など1つも思い付かず、絶望的な気持ちでそのまま頭を抱えてしまう。
もうレイに合わせる顔がない。
彼とこんな形で、関係を持ってしまうなんて────…
幼い頃から知っている、今では主治医である、彼と。
そして正気でなかった癖に、
彼女はその全てを鮮明に覚えている。誘ったのは 間違いなく自分だった。戸惑った様なレイの表情が蘇ってきて……その全ての現実が 彼女にとっては信じ難く、そしてこの上なく受け入れ難かった。
(なのに結局、レイはあんな情熱的に
────…私を抱いてくれた)