第6章 煩悶の渦中へ①【レイ】R18
それはレイにとって夢にまで見たアリスとのキスだった。────だがまさかこんな形で現実になろうとは、と思わず彼は 自身の拳を強く握り締めた。
(そもそもこいつが今 正気なのかどうかすら、定かではないというのに)
その強引に重ねられた唇の隙間から 彼の予想以上に熱い舌が強引に割り入ってきて レイの口内を妖しく這い回る。その間彼は眩暈にも似た衝動に駆り立てられていった。このまま何もかもを忘れ 彼女をその場へ押し倒したい、そんな邪な心がレイを揺り動かす。彼の中、必死にそれが理性と鬩ぎ合っていた。
("誰か"の熱が欲しくなると彼女は言った)
『…ん…レ、イ』
「────っ、」
その内衣服を掴んでいる彼の手の力が徐々に抜けていく。
(ならばもし 私が今 これを受け入れなければ、
───…私ではない他の"誰か"に、
その"対象"は向けられるのではないか────?)
レイは彼女からの不器用なキスを
そんな疑心と共にただ受け止めていた。パサリと遂にそれが彼の手からフロアへ落ちた時、柔らかい感触が 直接彼の身体に伝わって来る。
(この熱くなった身体さえ鎮めてやれば
───お前が正気に戻るというのなら
……この方法もやぶさかではないのか)
レイはその時 意を決した様に
縋り付いてくるアリスの身体をがっしりと腕で支え、衝動的にただ押し付けられる唇へ───…意思を持った強く 深い口付けを返した。