第6章 煩悶の渦中へ①【レイ】R18
そこで一瞬 間を起き心を鎮めた彼は 押し付けた衣服で彼女の肌を隠すと瞼を閉じ、なんとか冷静さを取り戻す。だが "何かがおかしい" 今彼に分かっているのは漠然としたその感覚だけだった。
レイは素早くアリスの全身を視診する。
(見て取れるのは
どれも擦り傷程度だ、主だった外傷はない。
………となると)
異常なのは精神の方かもしれない、
と彼は直ぐ "患者" を診る指針を変える事にした。
(───…いささか専門外、だがな)
「私は未だ仕事中で ここは病院だ
大人だと言うのならば当然、
お前にもこの状況を見極められるはずなのだが…」
『それは…』
「───その判断が出来ていない以上、
お前が今 通常の精神状態ではないのだと
私は判断せざるを得ない
悪いがその要望は、受け入れられない」
掌でアリスの頬をそっと撫でると、意識して慰める様に声のトーンを落とす。
『あなたはこんな時でも
───憎らしい程に冷静なのね…』
「ハァ……いいから。早く服を着ろ
誰かが入って来たらどうするつもりだ?」
彼は軽い頭痛を感じ眉間を歪めつつ小さく首を振った。
『…そんなの…』
だがアリスは添えられたレイの掌に甘えるように顔を擦り寄せる。
『鍵をかけてくれたらいい──』
「アリス……冷静になれ
愛の告白だとしても
これは────少々ロマンチックさにかけるんじゃないのか?」
その流れでアリスの顎をそっと引き上げると瞳を確認した。
『そうね……認めるわ、
私は今、とても冷静な状態とは、言えない』
「────だろうな」
今は真夜中と言ってもいい時間帯、なのに彼女の瞳孔はまるで真夏の陽射しの中にでもいるかの様に大きく見開いている。
それは、明らかな興奮状態である事を意味していた。