第1章 創作の鍵【ホムラ】
アリスは小さな溜息を吐くと、シーツの中に大人しく戻った。その姿を満足気な表情で確認したホムラは再び筆を走らせていった。
(私の気侭な恋人は、
どうやらスランプから解放されたようね)
最も彼は自身がスランプだなどと言うことは決して認めたりはしないのだけど…。
──────…
いつの間にか再び浅い眠りについていたらしい。次にアリスを目覚めさせたのは、鼻をくすぐる香ばしいコーヒーの香りだった。
「目覚めの珈琲を一緒に飲まない?
これは僕が地上でしたかった、一つの夢でもあるんだ
────叶えてくれる?」
その言葉にアリスが目を擦りつつ小さく微笑む。
『もちろん。
リモリアの "王子様" は可愛らしい夢を持っているのね』
ホムラが膝元に珈琲と軽食の乗った小さなテーブルを置くと、シーツの中に潜り込んできた。
「可愛らしい夢とは心外だな
第一に、海の中では珈琲が飲めない。どれだけ希少な経験か、君にはわからないだろうね」
『う〜ん、そうかもね』
「第二に、この夢は地上で得た最も愛しい人と一緒に飲む事に最大の意味があるんだよ
一緒に味わうのは恋人でなくてはならないんだ」
『ふふ、光栄だわ』
共に出されたクロワッサンからバターの良い匂いがする。
空腹に耐えかねたアリスが珈琲を一口口に含んだあと、徐にパンに齧り付くのを見てホムラは幸せそうに微笑んだ。
『少し食べにくいんだけど』
「我慢して」
いつの間にかホムラの腕はアリスの腰に絡み付き顔は膝元に埋まる。