第1章 創作の鍵【ホムラ】
温もりを自身の胸元に感じ目覚める幸福な朝。ホムラは薄く瞼を開き、シーツの中の存在を確認すると再び 幸福な微睡の中に戻った。
(ああ、歴代のリモリアの神よ…感謝します)
信仰とは無縁と思っていた自身からこんな感情が湧き上がって来るとは…と思わず緩く口角が上がった。まだ規則正しく発せられる呼吸を堪能すれば、えもいわれぬ幸福感に包まれる。
(昨夜の色は、鮮やかなパッションピンク…)
いや、パッションピンクとも違う。もう少し赤みがあり、火照る肌の色が脳内で反芻される。忘れないうちにこの多彩な色をキャンパスの上にのせたい。 個展の為あと数点の絵を仕上げなければならならず、辟易していた現状がようやく打破できそうな心持ちだった。ホムラは自然と込み上げてくる創作意欲に身を任せる事にした。
────………
アリスが目覚めると昨夜一緒に過ごしたはずのホムラはベッドの中にいなかった。しかしそれが夢でなかったという証拠に、彼女の下腹部には鈍い痛みがあり、それに気付いて俄かに頬を染める。彼女は微塵も後悔していない、自身を誇らしく思った。恋人は探すまでもない。クイーンサイズのベッドから上半身肌色の背が視界に飛び込んでくる。キャンバスに意気揚々と筆を走らせている彼に彼女は声を掛けた。
『ホムラ、おはよう』
その声に顔だけをこちらに向けたホムラは微笑んだ。だが筆を止める事をせず上機嫌な声でまたキャンパスの方へむく。
「おはよう、僕の女王陛下殿」
シーツごと身体を起こそうとしたアリスを、だがホムラは再び振り向いて軽やかに止めた
「ダメだよ。まだ起きないで。
後生だからもう少しだけ、ベッドの中にいて欲しい
────僕の為にね」
『………成る程?』