第4章 きっかけ【セイヤ】
「あんたは俺をよく理解しているな」
『ふふ』
だがそれは単なるきっかけであって 恐らくこれまでも殺伐とした日々の中、互いにとっての存在は やはり癒しであり 依代であった。
ただ毎日顔は合わせるものの
決定的に距離を縮めるチャンスがなかった、それだけ。
友情から愛情へ 一歩近付いてはまた、羞恥から距離をとる。
恋愛に不慣れな2人にとってそこから先へと踏み込む事は、まるで遠く見えるあの山の稜線を越える様に 難しいことだった。
『はぁ…お腹減ったね
でも早朝じゃきっとコンビニくらいしか開いてないよね?』
アリスの投げた問いに彼が応える。
「ならばうちに来ないか?
良ければ俺が朝飯を作ろう」
互いに探る様に距離を詰める方法を模索する中、きっかけを作る一言を発したのはセイヤだった。
「────と言うか本当は
………まだあんたと、離れたくない」
だが意を決しそう言ったセイヤがあからさまに頬を染めている。そんな彼を見てアリスもつられた様に頬を染めた。
(やだもう私たち、小学生みたい…)
そう思いつつアリスは自身の心臓が早鐘の様に鳴り始めるのを感じていた。
セイヤがそっとアリスの手に触れ、伺う様に彼女を見つめたからだ。その顔は反則だ、とアリスは内心で悶えてしまう。
「来てくれるか?」
彼がアリスの指を絡めとると、彼女はやっと蕾が開く様に小さく微笑み頷いた。
「うん。
私も、まだ……セイヤと一緒にいたい」