第12章 絡め取る【シン、ホムラ】R18
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記憶の扉が開かれた。
それはかつて見た他の世界だ。
幻の様なその場所で、アリスは 人ならざる "何か" に寄り添っていた。
血に塗れた彼は 明らかに瀕死の状態で、消えかけている命を前に 彼女の感情は大きく揺さぶられている。
胸を劈く様な悲しみと彼を失いたくないというその想いだけが アリスにとってはやけにリアルで 生々しかった。
『私は貪欲でわがま…なの
一番嫌な…とは、他人に支配され…こと
もし運命が私に悪魔を殺せと言うのなら
──…私はあえて…なたを救う』
ジジ、ジジ、と音声の途中に雑音が入っている。見えている景色も鮮明とは言えない。
さながら数百年前に写されたレトロな映像フィルムのようだ。
だが目の前にある瞳は まるで深い闇に輝く宝石の様に赤く 美しかった。
「俺を救う?どんな代償を払うことになるのか わかってるのか?」
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『は…──────っ!!』
アリスはパッと目を見開いた。
最後に聞こえたあのシンの声だけが やけに鮮明に耳に残っている。
朝日の刺すことのないN109区の窓辺には 微かな月明かりが差し込んでいて ダークグレーのフロアに 長く薄い光の筋を描いている。
身体を起こすと滑らかな肌触りのシルクのシーツには 大量の汗が染み込んでいた。ヒヤリとした部屋の空気が アリスの肌を掠める。
(またこの夢だ)
ここでの生活を始める様になって数日…アリスは "奇妙な夢" を見るようになった。いや 正確には───… "シン" と生活を始めてから、と言っていいかも知れない。
その夢が 何故か失われていたかつての "記憶" だと…不思議なことにアリスは、自然と理解していた。