第5章 届かない距離
潜入任務から2日が経った頃。
静かな高専の共有スペースで、夏油くんと二人、椅子に座って缶コーヒーを乾杯していた。
「っふは、話って…何かと思えば…ふふ、夢主はホントに律儀だなぁ。全然気にしなくていいのに」
月明かりを背に、やわらかく微笑んだ夏油くん。
「っそんなことないよ!……本当に、夏油くんがあのとき守ってくれたから私は今ここにいるんだよ…!ありがとう…っ!」
潜入任務で助けてもらったお礼を直接伝えたくて、忙しそうな夏油くんのタイミングを伺って思い切って声をかけたけれど、「礼なんていいよ」と気を遣ってくれた。
でも、なんとかお礼がしたくて粘った結果、飲み物をご馳走させてもらえることになった。
「じゃあ、ありがたくいただくね」と笑う夏油くんの顔を覗き込むと、じっと目が合った。
「………かわいい」
「…え?」
「っいや!なんでもないよ…すまない」
頬をほんのり赤く染めて、恥ずかしそうに顔を背ける夏油くん。…今の「かわいい」はきっと、妹に対して抱くようなものと同じだよね。そんなに焦らなくても、ちゃんと伝わってるから大丈夫だよ。