第5章 届かない距離
「……そういえば、悟のこと…下の名前で呼ぶようになったんだね?」
夏油くんのその問いかけに、一瞬ドキッと心臓が跳ねた。
「そうなの…!なかなか勇気が出なくてずっと五条くん呼びだったんだけど、一回悟くん!って言ったら、なんだか吹っ切れちゃって…!」
「へぇ、そうなんだ。…羨ましいなぁ、硝子と悟は。夢主に下の名前で呼んでもらえてて。」
夏油くんはそう言って、静かに缶コーヒーを傾ける。苦味のある香りがふわっと鼻腔をくすぐった。
「ぁ…その…夏油くんのことも下の名前で呼んでいいの…?」
「うん、もちろん。……じゃあ、試しに呼んでみてよ」
「…!すぐる、くん…」
夏油くんは、手の中の缶コーヒーを見つめたまま動かない。
「……すぐるくん?」
「……っあぁ、ごめん。なんか、想像より破壊力あって…やばいな」
「破壊力…?」
「……ちょっと、もう一回言ってくれる?録音するから」
「ろ、録音!?」
「っふは、冗談だよ」
傑くんの冗談はいつもわかりにくい。
だって、真剣な表情で言うんだもん。
「っふふ、任務終わりに引き止めちゃってごめんね。ゆっくり休んでね…!いい夢見れますように!」
「ありがとう。夢主もいい夢が見れますように。」
そう言って、各々自分の部屋に戻った。