第5章 届かない距離
「…夢主が傑と一緒で良かった。マジで。色々サンキューな」
その目元は、先ほどまでの殺気が消えて、柔らかな雰囲気を纏っていた。
「あぁ。そっちは大丈夫だったのかい?」
夏油くんがそう問いかけると、悟くんは無造作に髪をかき上げながら、口角をニッと上げる。
「おー、全部片付けてからこっち来た。…夢主、待たせてごめんな」
「っ助けに来てくれて、ありがとう…!」
声が震える。安心からなのか、緊張が解けたからなのか、自分でもよく分からなかった。
「おーおー、泣くな泣くな」
悟くんは私の頭を撫でて、いたずらっぽく笑う。
「俺が来るの、遅すぎた?」
「ううん…!…あのっ 硝子ちゃんは…?」
一瞬、悟くんの表情が引き締まる。
「硝子なら、別の場所で負傷者の治療してる。もちろん術式は使ってないけど。さっきの衝撃でやられた客が結構いるらしくてさ」
「っそうなんだ、硝子ちゃんは無事?」
「大丈夫。傑が呪霊をつけて護衛させてるし、戦闘になりそうなら俺が行く。…ってか、俺らが片付けたらすぐ合流できるしな?」
悟くんはそう言いながら、もう一度優しく頭を撫でる。
「真っ暗闇に落下してった夢主の方が心配なんだけど?ケガしてない?」
「私は大丈夫だよ…!夏油くんがずっと守ってくれてたから…!」
「…そっか。じゃあ——」
悟くんが不意にしゃがみ込むと、ニッと笑って手を差し出す。
「ほら、歩ける?俺が抱えてやろっか?」
「えっ、い、いいよ…!大丈夫だよ!」
「へぇ、そう?」
悟くんは、そのまま私をひょいっと抱え上げた。
「わっ!?悟くん!?」
「おー、軽い軽い。これじゃ筋トレにもなんねぇな」
脱いだジャケットを膝にかけてくれた悟くんは、そのまま歩き出した。
「……やっぱめちゃくちゃ似合ってんな、ドレス。」
「っ!ぁ、ありがとう…っ悟くんもタキシードすっごく似合ってる…!かっこいい!!」
そう伝えると、唇をむっと結んで、顔を背けてしまった悟くん。
よく見ると、耳が赤く染まっていた。
「照れてる…?」
「ばっっっ…!仕方ねぇじゃん!!夢主がカワイイせいだからな!!」
「ふふっ、はいはい」
初めての潜入任務は、みんなのおかげで無事に終えることができた。