第3章 不思議なみぞの鏡【賢者の石】
家族や親しい相手に頬にキスするのは、別におかしいことじゃない。
ただ、家族とかが相手でも人に頬にキスされてるところを見るのは恥ずかしいものだ。
それに相手はフレッドだしと思いながら、恥ずかしさを抱えて恐る恐ると振り返った。
「·····セブ」
後ろにいたのはセブだ。
不機嫌そうに眉間に皺を寄せて、手には教材の本を抱えている。
「アリアネ、お前は·····ウィーズリーの双子の片割れと恋人の何かなのか?」
「恋人·····!?そんな訳ないでしょう!なんでそう思ったの!?」
彼の言葉にギョッとした。
フレッドと恋人と言われた事に驚いたのもあるけれど、初恋相手で今も恋をしている人に言われると尚更、なんとも言えない気持ちや驚きがある。
「この間から、とても親しげに頬にキスをされたり図書館に逢い引きしていたようなので」
「·····嘘でしょ、見てたの?」
「こちらとしては、見せられたと思っているがな」
恥ずかしさで爆発しそう。
私は両手で顔を覆いながら、その場にしゃがみこむ。
「恋人じゃないなら、結構。まだ早すぎる年齢だと吾輩は思うからな」
「·····早すぎる年齢?」
彼の言葉に、私は目を見開かせてしまう。
「お前はまだ十一歳。恋人など早すぎるだろう。本当に好きかどうか判断出来ているのかも怪しい年頃だ」
「·····そう、かしら」
早すぎると言われて、なんとも言えない気持ちになる。
好きな人に早すぎると言われてしまい、そしてなんだか否定された気分になった。
「·····恋をするのに、恋人を作るのに早いも遅いも無いと思うわ。それに、セブは恋をしなかったの?私ぐらいの歳の時に」
そう質問すると、セブは更に眉間に皺を寄せながら視線を私から外した。
少しだけ考えているような、そんな瞳の揺れが全て答えを出している。
この人は恋をした事があるんだ。
それを知った瞬間、どうしようも無く悲しくなってしまう。
年の差もあるし、仕方ないと言えば仕方ないけれど好きな人に好きな人がいたなんて知りたくなかった。
「·····居たんだね」
「·····吾輩に好きな人間がいたかどうかは、関係なかろう」
「·····そうだね、私には関係ないものね」
「何故、そこでお前が不機嫌になる」
「別になってないわ!もう次の授業があるクラスに行くから!さようなら!」