第3章 不思議なみぞの鏡【賢者の石】
不意に背後から聞きなれた双子の声が聞こえ、私はため息を吐きながら振り返った。
「男の子って、そういうものなの?」
「「そういうものさ!」」
「だから、ジョージとフレッドも危険を犯してモリーおばさんを怒らしても冒険するのね」
呆れたように半笑いを浮かべながら言えば、二人は揃って頷いて見せる。
やっぱり男の子ってよく分からないと思っていれば、ジョージとフレッドは私の目線に合わせるように屈む。
「女性には分からないかもしれないけれど、男は冒険にロマンを感じてるんだよ」
「それに楽しくてワクワクするから冒険を求める」
「「冒険は男の楽しみだ」」
「·····私には、よく分からないわね、うん」
昨日の事を思い出すと、ワクワクなんてしなかった。
フィルチから逃げ惑って、化け物のような三頭犬と遭遇したことを思い出すと。
「アリアネ、僕と深夜に寮を抜け出して冒険してみるかい?冒険という名の深夜のデートなんて、いかがですか?」
フレッドは私の手をとると、紳士のように腰を少しだけ折ってから私の手の甲にキスを落とす。
「·····遠慮しておくわ」
またフィルチに追い掛けられるのは懲り懲り。
「フラれたな、フレッド」
「フラれてしまったよ、ジョージ。じゃあ、今から授業をサボってデートは?」
「いやよ。私なんて誘わずに、同い年の子を誘ってみたらどう?年下の子供を相手にしないで」
「うーん、それは嫌だな。僕がデートしたいのは、アリアネだからな」
「それもまた、お得意の冗談なの?」
やれやれと肩を竦めながら、私が歩き出そうとすると腕をやんわりと掴まれた。
そして腕を引っ張られて、引き寄せられたかと思えばフレッドは私の頬にキスを落とす。
柔らかい唇の感触に、少し驚いていればフレッドはニヤリと笑った。
悪戯っ子のようなそんな笑顔を浮かべ、囁いてくる。
「冗談だったら、良かったんだけどな」
「·····え?」
「じゃあ、僕は今からジョージと授業をサボって冒険だ」
「やれやれ、兄弟の前でキスシーンなんて見せつけないでくれよ、兄弟」
「気にするな、兄弟。じゃあな、アリアネ」
「またな、アリアネ」
嵐が過ぎ去った気分だった。
フレッドにキスされた頬に手を当てながら、長く長くため息を吐いていれば後ろから足音が聞こえる。
誰かに見られたのかもしれない。