第16章 闇の印【炎のゴブレット】
ハリーは少し不安そうにしていた。
魔法使いは常に肌身離さず杖を持っているものだから、不安になるのも当たり前。
そう思っている時、ガサガサッという音が聞こえて、私たち4人は跳び上がった。
誰かいる。
そう思って音が聞こえる方へと視線を向ければ、屋敷しもべのウィンキーが近くの灌木の茂みから抜け出そうとしていた。
見るからに動きにくそうで、見えない誰かに引き止められているような動き。
「悪い魔法使いたちがいる!人が高く──空高く!ウィンキーは退くのです!」
ウィンキーは引き止めている何かから抵抗しているようだが、直ぐに小道の向こう側の木立へと消えていった。
「今の、ウィンキーだったわよね」
「いったいどうなってるの?どうしてまともに走れないんだろう?」
「きっと、隠れてもいいっていう許可を取ってないんだよ」
「ねえ、屋敷妖精って、とっても不当な扱いを受けてるわ!」
突然ハーマイオニーが憤慨した。
「奴隷だわ。そうかのよ!あのクラウチさんっていう人、ウィンキーをスタジアムのてっぺんに行かせて、ウィンキーはとっても怖がってた。その上、ウィンキーに魔法をかけて、あの連中がテントを踏みつけにしはじめても逃げられないようにしたんだわ!どうして誰も抗議しないの?」
「でも、妖精たち、満足してるんだろう?ウィンキーちゃんが競技場で言ったこと、聞いたじゃないか……『しもべ妖精は楽しんではいけないのでございます』って……そういうのが好きなんだよ。振り回されてるのが……」
ウィンキーは少しドビーと違う。
ドビーは自由になりたがっていたし、自由になった事に喜んでいた。
だけどウィンキーはそうじゃない……。
屋敷しもべ妖精は確かに不当な扱いを受けている。
だけど本人たちがそれに満足しているというなら、変に口出ししない方が良いかもしれない。
なんて思っていれば、ロンの言葉にハーマイオニーが更に憤慨していた。
「ロン、あなたのような人がいるから!腐敗した、不当な制度を支える人達がいふかは。単に面倒だから、という理由でなんにも──」
ハーマイオニーの声に重なるように、森のはずれからまたしても大きな爆発音が聞こえてきた。
「まただわ……だんだん音が近付いてる」
「とにかく先に行こう。ね?」
ロンの言葉に私達は頷いて、また急ぎ足で歩き出した。