第15章 ワールドカップ【炎のゴブレット】
アイルランドのビーター、クィグリーが目の前を通るブラッジャーを大きく打ち込んだ。
そしてクラム目掛けて力の限り叩きつけると、クラムはそれを避け損ない、ブラッジャーが顔に当たった。
「……い、痛そう……」
競技場が呻き声一色になる。
万眼鏡で見た時、クラムの鼻は折れたかのように見えた。
血はそこら中に飛び散っていている。
だが、モスタファーはホイッスルを鳴らさない。
何せヴィーラが投げた火の玉が、彼の箒に着いて火事になっているから。
「早く気がついてよ……」
「あれは気が付かないな……」
「うん」
ビルとチャーリーは痛そうに顔を歪めながら、頷きあっている。
「タイムにしろ!あた、早くしてくれ。あんなんじゃ、プレー出来ないよ。見て──」
「リンチを見て!」
ハリーが突然叫んだ。
万眼鏡でリンチを見れば、彼は急降下し始めている。
「スニッチを見つけたんだよ!見つけたんだ!行くよ!」
その事態に観客の半分が気がついたらしい。
アイルランドのサポーターが緑の波のように立ち上がり、シーカーに大歓声を送る。
だけど後ろにはクラムがピッタリとついていた。
クラムのあとに、点々と血が尾を引いている。
痛そうに見えるけれど、それでもクラムは今やリンチと並んでいた。
2人が一対になって、再びグラウンドに突っ込んでいく。
「2人ともぶつかるわ!」
「このままじゃ大事故よ!」
「そんなことない!」
「リンチがぶつかる!」
私とハーマイオニーは顔を手で覆いながら、指の隙から状況を見て、ロンとハリーは叫ぶ。
そしてリンチが地面に激突した。
「スニッチ、スニッチはどこだ?」
チャーリーが叫ぶと、ハリーも叫んだ。
「とった、クラムが捕った。試合終了だ!」
赤いローブを血で染めながら、クラムが舞い上がる。
高々と突き上げている拳の手の中には、金色の煌めきが見えた。
すると大観衆の頭上のスコアボードが点滅した。
ブルガリア 160 アイルランド 170
最初、何が起こったのか観衆は飲み込めていなかった。
だけどすぐにアイルランドのサポーターがざわめき出し、歓喜の叫びが爆発した。
「アイルランドの勝ち!」
バクマンが叫んだ。
「クラムがスニッチを捕りました。しかし勝者はアイルランドです。なんたること。誰がこれを予想したでしょう!」