第15章 ワールドカップ【炎のゴブレット】
ハリーと私の名前を聞いたバグマンは、ほんの少したじろいでいた。
そしてハリーの額の傷へと視線を向けていく。
「みんな、こちらはルード・バクマンさんだ。誰だか知ってるね。この人のお陰でいい席が手に入った」
バグマンはにっこりと笑いながら、手を軽く振る。
「試合に賭ける気はないかね、アーサー?」
ジャラッとバグマンのローブのポケットから金貨の音が聞こえた。
試合に賭ける人はいると聞いたけれど、あまり好きじゃないなと思う。
お金を賭けて負けたら損しかないのだから。
「ロディ・ポントナーが、ブルガリアが先取点をあげると賭けた。いい賭け率にしてやったよ。アイルランドのフォワードの3人は、近来にない強豪だからね。それと、アガサ・ティムズのお嬢さんは試合が1週間続くと賭けて、自分の持っている鰻養殖場の半分を張ったね」
「ああ……それじゃ、賭けようか。そうだな……アイルランドが勝つ方にガリオン金貨1枚じゃどうだ?」
「1ガリオン?」
バグマンは金貨が少ないからか、ガッカリしていた。
「よし、よし……他に賭ける者は?」
「この子達にギャンブルは早すぎる。妻のモリーが嫌がる」
アーサーおじさんは子供たちに賭け事はさせたくないようだけど、フレッドとジョージは違ったらしい。
「賭けるよ。37ガリオン、15シックル、3クヌートだ」
ジョージと2人でコインをかき集めながら、フレッドがそう言った。
「まずアイルランドが勝つ。でも、ビクトール・クラムがスニッチを捕る。あ、それから『だまし杖』も賭け金に上乗せするよ」
「バグマンさんに、そんなつまらないものをお見せしては駄目じゃないか」
だけどバグマンはだまし杖を気に入ったらしい。
フレッドから杖を受け取ると、子供っぽい顔が更に興奮で輝いていた。
杖がガァガァと大きな鳴き声を上げて、ゴム製の玩具の鶏に変わると大声で笑う。
「すばらしい!こんなに本物そっくりな杖を見たのは久しぶりだ。私ならこれに5ガリオン払ってもいい!」
本当に子供のような人だなと思っていれば、アーサーおじさんが声を潜めながら、双子に声をかけていた。
「お前たち、賭けはやってほしくないね……貯金の全部だろうが……母さんが」
「お堅いことを言うな、アーサー!」
バグマンは興奮気味にアーサーおじさんの背中を叩いた。