第14章 秘密【アズカバンの囚人】
短く言ったリーマスは応接間から出ていった。
その後ろ姿を見送りながら、シリウスは1人でソファの背もたれに背を預けながら息を吐き出す。
「ヘレンじゃないのは、私も知っているさ……」
小さく呟いた声は応接間の暗さに溶けていく。
「だが……触れるぐらいはいいだろう?なあ、ムーニー」
翌朝。
アリアネは何時も下ろしている髪の毛をひとつに束ねて、ポニーテールにしてから台所に立っていた。
魔法の使用を禁止されている学生である為、朝食はマグル式で作らなければならない。
「スクランブルエッグ、ベーコン、パン、サラダ……」
作るべきものを呟いている時である。
「おはよう、アリアネ」
台所のシンクに手を付き、アリアネを閉じ込めるように覆い被さるのはシリウスだ。
ビクッとアリアネは身体を跳ねさせながら、後ろを振り向けば、シリウスは爽やかな笑みを浮かべていた。
「お、おはよう、シリウス。早いのね」
「それは君もだな。スクランブルエッグかい?」
「そう。もうすぐで出来るから」
「それは楽しみだ」
「沢山食べてね。シリウスは少し、太らないと」
「私もそう思った」
シリウスはアリアネの背後にくっついたまま離れない。
その事に戸惑いながら、スクランブルエッグを作るアリアネの頬はほんのりと赤に色づいている。
「おはよう、アリアネ、シリウス。そしてアリアネから離れるんだ、シリウス」
2階から不機嫌な表情で降りてきたのリーマスは、シリウスを睨みつけると、シリウスは笑みを浮かべたままアリアネからゆっくりと離れた。
「朝から私の名づけ子になにをしているんだい?」
「朝の挨拶さ」
「あんなに密着するのが君の挨拶かい?アズカバンに長くいすぎて、挨拶の仕方も忘れたのかな」
「もしかしたらそうかもしれない。なにせ12年も入っていたからね」
朝からピリついた空気にアリアネは戸惑う。
シリウスの距離の近さも戸惑うが、リーマスの態度にも戸惑ってしまう。
「朝からピリつかないでよ……。もう朝食出来たら食べましょう」
「そうしよう。皿を運ばないとね」
シリウスはニッコリと微笑みながら、杖を取り出すと食器棚へと向ける。
ふわりとお皿が浮かび上がり、机に並んでいく。
「ありがとう、シリウス」