第14章 秘密【アズカバンの囚人】
「父さんを見たんじゃない!僕、自分自身を見たんだ!」
「え?」
ハリーはそう叫ぶと陰から飛び出して、杖を取り出すと吸魂鬼へと向けた。
「エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」
すると杖の先からは、目が眩むほど眩しい銀色の光が吹き出した。
だがその光はただの光ではなく、動物の姿をしているのだ。
馬のような動物。
だけど眩しくてその動物が何なのかはわからないが、その動物は音もなく疾走していく。
頭を下げてから、吸魂鬼の群れに突進して行くのが見えた。
「吸魂鬼が……退却していく……」
吸魂鬼は眩い光を放つ動物から退却していく。
よく見れば動物は雄鹿であり、吸魂鬼を退却させると緩やかに走りながらハリーの元に向かってきた。
足音もなければ足跡さえ残さずに走ってきた雄鹿。
すると隣でハリーがボソリと呟いた。
「プロングズ」
ハリーが触れようすると、雄鹿がふわりと消えてしまった。
「あれは……守護霊だったの?ハリーの」
「……わからない」
2人で唖然としていた時だ。
背後から物音が聞こえて、2人で飛び上がってしまった。
慌てて振り返れば、ハーマイオニーとバックビークがこちらへと走ってくる。
「何をしたの?何が起きているのか見るだけだって、あなた、そう言ったじゃない!アリアネも何をしたの!?」
「な、何もしてないわよ、私は……」
「僕たち全員の命を救ったんだ……。ここに来て、この茂みの影に。説明するから……」
ハリーはハーマイオニーに何が起きたのかを説明した。
するとハーマイオニーは驚いた表情を浮かべて、口をポカンと開けてしまう。
「誰かに見られた?」
「ああ。話を聞いてなかったの?僕が僕を見たよ。でも、僕は父さんだと思ったんだ!だから大丈夫!」
「ハリー、私、信じられない。あの吸魂鬼を全部追い払うような守護霊を、貴方が創り出したなんて!それって、とっても、とっても高度なのよ……」
「僕、出来るとわかってたんだ。だって、さっき一度出したわけだから……僕の言ってること、何か変かなあ?」
「よく分からない。あ、ハリー、アリアネ!スネイプを見て!」
茂みに隠れながら、じっと湖のほうを見る。
セブが意識を戻したようで、担架を作り出して全員をそれに乗せていた。
そして杖を前に突き出して、担架を城へと運んでいる。