第14章 秘密【アズカバンの囚人】
「動くな!」
ハリーが叫んだが、既に遅かった。
ペティグリューはネズミに変身していて、だらりと伸びたロンの腕にかかっている手錠をペティグリューの尻尾が掠める。
「ヴェンタス(吹き飛べ)!」
呪文を唱えたが、ペティグリューには当たらなかった。
ペティグリューはそのまま校庭の草むらを慌てて走り去ってしまう。
「待ちなさい!ペティグリュー!卑怯者!!」
追いかけようとした時だ。
吠える声と唸る声が同時に聞こえて、振り返るとリーマスが逃げ出すところだった。
狼人間に変身したリーマスは森に向かって疾駆していく。
「シリウス、あいつが逃げた!ペティグリューが変身した!」
シリウスは血を溢れさせていた。
鼻面と背中に深手を負っていたが、直ぐに足音を響かせてから校庭を走り去る。
「……ロン!」
私はシリウスの姿を見ていたが、直ぐにロンが倒れていることを思い出してロンに駆け寄った。
「ロン!?」
ロンは半目になっていて、口はだらりと開いている。
生きてはいるけれど、その瞳に私たちを映さない。
「ペティグリューはいったい、ロンに何をしたのかしら?」
「わからない。取り敢えず、2人を城まで連れて行って誰かに話をしないと」
「そうね……ロンとセブをこのままにはしておけないものね」
「行こう」
歩き出そうとした時、キャンキャンという苦痛を訴えている犬の鳴き声が聞こえた。
この声の主は誰なのか直ぐにわかった。
「シリウス」
ハリーが駆け出し、私とハーマイオニーも走り出した。
甲高い声は湖のところから聞こえいて、急いでそこへと走る。
やがてキャンキャンという声が聞こえなくなった。
どうしたのだろうかと思えば、シリウスが人の姿に戻っていたのだ。
蹲って、両手で頭を抱えながら叫んでいる。
「やめろおおお!辞めてくれええ……頼む……」
吸魂鬼がいた。
シリウスを囲むように少なくとも100人ぐらいの吸魂鬼がそこにいたのだ。
ヒヤリと身体が冷えてくる。
目の前が霧のように霞んできている中で、四方八方から吸魂鬼がやって来るのが見えた。
「アリアネ、ハーマイオニー、何か幸せなことを考えるんだ!」
私の幸せなこと。
それはまたもう一度リーマスと暮らすことであり、そへを考えながら杖を取り出した。
出来るかどうか分からないけれど、やってみるしかない。