第14章 秘密【アズカバンの囚人】
「もし自分たちの身に何かあればと……もちろん、君が叔父さんや叔母さんのとこのまま一緒に暮らしたいというなら、その気持ちはよく分かるつもりだ。しかし……まあ……考えてくれないか。私のおめいが晴れたら……もし君が……別の家族が欲しいと思うなら……」
「えっ?貴方と暮らすの?ダーズリーいっかと別れるの?」
「むろん、君はそんなことは望まないだろうと思ったが。よくわかるよ。ただ。もしかしたら私と、と思ってね……」
シリウスの視線は左右上下に動いていた。
キョロキョロと落ち着きのない彼は、なんだか小さな子供のようで思わず笑みが零れしてしまう。
「とんでもない!もちろん、ダーズリーの所なんか出たいです!住む家はありますか?僕、いつ引っ越せますか?」
ハリーは食い気味でそう尋ねた。
するとシリウスは驚いたようにハリーの方へと振り返ってから目を見開かせている。
「そうしたいのかい?本気で?」
「ええ、本気です!」
シリウスが満面の笑みを浮かべた。
初めて見るその満面の笑みは、げっそりした顔を変えてしまいぐらいのものだ。
その笑顔は、私の両親の結婚式で快活に笑っていたものと同じもの。
(この人は、こんなふうに笑う人なのね……)
ハリーがシリウスと住むことになれば、きっとハリーは幸せになれる。
何故か私はそう思えた。
「じゃあ、ハリーがシリウスの所に引っ越したら、引越し祝いをしなきゃね。お祝いしなきゃ、ダーズリーの家から出れたことを」
「そうだね!引越し祝いなんて、した事ないから楽しみだなあ」
「そんなに楽しみにしてくれるのかい。嬉しいね」
シリウスは笑みを浮かべたまま、セブの頭をゴリゴリと天井にぶつけながら歩いていた。
その後は私たちは何も会話をしなかったが、晴れた気分になっていた。
先頭を歩いていたクルックシャンクスが、最初に飛び出して木の幹のコブを押してくれたようだ。
『暴れ柳』は動きを止めていて、すんなりとトンネルから出れた。
「真っ暗ね……」
外に出ると既に真っ暗。
城からの明かりが見えてくるが、辺りは暗くて何も見えない。
「ちょっとでも変な真似をしてみろ、ピーター」
ふと、前の方からペティグリューを脅すリーマスの声が聞こえてきた。
なんだか人が変わっている気がしたが、気にしないことにする。