第13章 裏切り者【アズカバンの囚人】
ギュッとアリアネはリーマスとシリウスの腕を掴む。
掴んでいるその手は微かに震えていて、瞳には涙が薄らと浮かんでいる。
「アリアネ……」
「お願い、リーマス。貴方が殺人者になるのは嫌よ……シリウスも、お願い」
か細い声は涙声となっていた。
アリアネは2人の腕を震えながら掴み、ぐっと涙を堪える。
名付け親と両親の親友が人殺しになるなんて、それだけは絶対に阻止したい。
もし2人がペティグリューを殺せば、それこそ両親は悲しむだろう。
「こいつを城まで連れていこう。僕たちの手で吸魂鬼に引き渡すんだ。こいつはアズカバンに行けばいい……殺すことだけは辞めて」
「それに、ペティグリューが生かして全てを自白させたらシリウスは無罪になるかもしれないでしょう?だから殺しちゃだめ。殺すことだけは駄目よ」
シリウスは目を見開かせた。
そしてアリアネへと手を伸ばそうとした時だ。
「ハリー、アリアネ!」
ペティグリューが、両腕でハリーの膝を抱きしめたのである。
そしてアリアネにも近寄り、彼女のローブを掴んだ。
「君達は、ありがとう……こんな私に、ありがとう」
「放せ」
「放して」
2人はピシャリと言うと、ペティグリューの手を払い除けた。
「お前のために止めたんじゃない。僕の父さんは、親友が、おまえみたいなものの為に……殺人者になるのを望まないと思っただけだ」
「私の名付け親と、両親と名付け親の大切な親友が殺人者になるなんて嫌よ。だから止めただけ……思いがあがらないでちょうだい」
2人の言葉に、誰も1人として動くことはなかった。
部屋にはペティグリューの荒い息遣いが響いているだけ。
シリウスとリーマスは互いを顔を見合せてから、眉を下げて杖を2人同時に下ろした。
そしてリーマスはアリアネの頭を優しく、壊れ物を扱うように撫でる。
「分かったよ、アリアネ。止めてくれてありがとう」
「……うん」
シリウスは、目を細めながらアリアネとハリーを見つめた。
「ハリー、アリアネ、君達だけが決める権利を持つ。しかし、考えてくれ……こいつがやったことを……」
「こいつはアズカバンに行けばいいんだ。あそこがふさわしい者がいるとしたら、こいつしかいない。だろう?アリアネ」
「ええ、そうね。アズカバンに行くべきよ」