第13章 裏切り者【アズカバンの囚人】
12年間、こんなにも丁寧に接されたことが無かったせいかもしれない。
「お聞きしてもいいでしょうか?ど、どうやってアズカバンから脱獄したのでしょう?もし闇の魔術を使っていないのなら」
「そのとおり!それこそ、私が言いた──」
ペティグリューが叫んだ瞬間、リーマスが彼を睨み付けて黙らせた。
シリウスはハーマイオニーの質問に顔を顰めていたが、不快そうではない。
自分でもその答えを探しているかのようだった。
「どうやったのか、自分でも分からない」
シリウスはゆっくりと答えた。
「私が正気を失わなかった理由は唯1つ、自分が無実だと知っていたことだ。これは幸福な気持ちではなかったから、吸魂鬼はその思いを吸い取ることが出来なかった……しかし、その想いが私の正気を保った。自分が何者であるか意識し続けていられた……私の力を保たせてくれた……だからいよいよ、耐え難くなった時は、私は独房出変身することができた……犬になれた。吸魂鬼は目が見えないのだ……」
シリウスはゆっくりと答えながら、唾を飲み込む。
「連中は人の感情を感じ取って人に近づく……私が犬になると、連中は私の感情が人間的でなくなり、複雑でなくなるのを感じ取った……しかし、連中はもちろん、それを他の囚人と同じく私も正気をた失ったのだろうと考え、気にもかけなかった。とはいえ、私は弱っていた。とても弱っていて、杖無しに連中を追い払うことはとても出来ないと諦めていた……」
そこでシリウスは一息置いた。
息をゆっくりと吸い込みながら、落窪んでいる瞳はペティグリューを見ている。
「そんな時、私はあの写真にピーターを見つけた……ホグワーツでハリーと、ウィーズリー家でアリアネと一緒にだということがわかった。……闇の陣営が再び力を得たとの知らせが、ちらとでも耳に入ったら、行動が起こせる完璧な態勢だ……」
ペティグリューはシリウスに睨まれて、縮み上がった。
口はパクパクとしながら首を横に振っているが、声は出ていない。
「……味方の力に確信が持てたら、とたんに襲えるよう準備万端だ……ポッター一家とフリート一家最後の1人を味方に引き渡す。ハリーとアリアネを差し出せば、奴がヴォルデモート卿を裏切ったなどと誰が言おうか?やつは栄誉を持って再び迎え入れられる……」