第13章 裏切り者【アズカバンの囚人】
同時にゴロゴロという声が聞こえてくる。
その声を聞いた3人は目配せをしてから頷き、ハリーが杖を持ってドアを蹴り開けた。
中は埃っぽいカーテンが掛かった壮大な4本柱の天蓋ベットがあり、その真ん中でクルックシャンクスが寝そべっている。
そして3人を見るとゴロゴロと喉を鳴らす。
その脇の床には、折れたせいか妙な角度に曲がった足を投げ出しているロンがいた。
「ロン!」
3人は慌ててロンに駆け寄った。
「良かった、ロン。生きてて」
「ロン、大丈夫?」
「犬はどこ?」
「犬じゃない」
ロンは震える声で呟いた。
「ハリー、アリアネ、罠だ」
「え?」
「罠?」
「あいつが犬なんだ……あいつは『アニメーガス(動物もどき)』なんだ……」
ロンは震えながら、ハリー達の背後を見つめる。
その視線を辿るようにアリアネとハリーはくるりと振り返ると、そこには影の中に立つ男がいた。
男は3人が入ってきたドアをピシャリと閉める。
「まさか……」
汚れきった髪と伸びきった髭、暗い落ち窪んでちるギラッと光る眼窩。
血の気のない皮膚、ニヤリと笑うと見える黄色の歯が見えた。
「シリウス・ブラック……!」
アリアネがその名を叫んだ瞬間だった。
「エクスペリアームス(武器よ去れ)!」
シリウスはロンの杖を持っており、呪文を3人に向けて唱えた。
すると杖は3人の手から飛び出して、ふわりと空中を飛ぶとシリウスの手の中に収まる。
「君達なら友を助けに来ると思った」
声の使い方を忘れたかのようなかすれた声。
「君達の父親も私のためにそうしたに違いない。君達は勇敢だ。先生の助けを求めなかった。ありがたい……そのほうがずっと事は楽だ……」
まるで、アリアネとハリーの父親達を嘲るかのような言葉に2人は怒りを覚えた。
腸が煮えくり返るような怒りを感じ、アリアネは自分の手の中に杖がないことを悔やんだ。
もし今、杖が手の中にあればシリウスを攻撃して、減らず口を黙らすことも出来たのにと。
アリアネとハリーは我を忘れて、身を乗り出そうとした。
だがそれをハーマイオニーとロンが止める。
「ハリー、アリアネ、だめ!」
ハーマイオニーは首を横に何度も振って、飛び出そうとする2人を止めた。