第12章 守護霊【アズカバンの囚人】
「エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」
ハリーの叫び声が響く。
だが吸魂鬼は消えることなく、やがてハリーにゆっくりと近づいていく。
そしてハリーの体がゆっくりと倒れたいった。
「ハリー!!」
アリアネが叫んだ時、吸魂鬼が彼女の方へと視線を向けた。
その時、アリアネの視界がぐらりと揺れて何か女性の悲鳴が聞こえてくる。
『ハリーだけは!ハリーだけは!お願い!』
『逃げて、リリー!ハリーとアリアネを連れて逃げて!!』
『どけ、どくんだ、小娘』
2人の女性の悲痛な声と、不快な恐ろしい声が聞こえたと思った時だった。
「アリアネ!!アリアネ!!」
「あ·····」
意識がはっきりしたかと思えば、視界にはリーマスとハリーの顔が映った。
「私·····」
「大丈夫か?」
「う、うん·····」
床に仰向けに倒れていたアリアネ、あれが吸魂鬼の力なんだと身をもって経験した。
気持ちが悪い、なんとも言えない不快感が押し寄せてくる。
「アリアネ、ハリー、これを食べるといい」
リーマスは2人に蛙チョコレートを手渡した。
2人はそれを齧り、気分が少しずつ良くなっていくのを感じた。
「ハリー、もう一度やろう。1回でできるなんて期待してなかったよ。むしろ、もしできたら、びっくり仰天だ。アリアネ、大丈夫かい?もう少し離れた場所から見てる方がいい」
「う、うん·····」
アリアネはリーマスに支えられながら、少し離れた位置に腰掛けた。
「ますますひどくなるんです」
ハリーが蛙チョコレートをかじりながら呟いた。
「母さんの声がますます強く聞こえたんです。それに、あの人·····ヴォルデモート·····」
「私も、聞こえた。母さんとたぶんあれは、ハリーのお母さんの声。それにヴォルデモートの声も·····」
「アリアネもかい?」
「うん·····」
2人の会話にリーマスは眉を下げた。
「ハリー、続けたくないなら、その気持ちは、私にはよくわかるよ」
「続けます!やらなきゃならないんです。レイブンクロー戦にまた吸魂鬼が現れたら、どうなるんです?また落ちるわけにはいきません!この試合に負けたら、クィディッチ杯は取れないんです!」