第12章 守護霊【アズカバンの囚人】
「守護霊は一種のプラスのエネルギーで、吸魂鬼はまさにそれを貪り食らって生きる。希望、幸福、生きようとする意欲などを。しかし守護霊は本物の人間なら感じる絶望というものを感じることが出来ない。だから吸魂鬼は守護霊を傷つけることもできない。ただし、ハリー、一言言っておかねばならないが、この呪文は君にはまだ高度するぎるかもしれない。1人前の魔法使いさえ、この魔法には手こずるほどだ」
リーマスの説明は分かりやすかった。
彼の説明を聞いたハリーは首を少し傾げながら質問をした。
「守護霊ってどんな姿をしているのですか?」
「それを創り出す魔法使いによって、1つひとつが違うものになる」
「どうやって創り出すのですか?」
「呪文を唱えるんだ。何か1つ、1番幸せだった思い出を、渾身の力で思い詰めた時に、初めてその呪文が効く」
その言葉にアリアネは『ふむ·····』と顎を摩る。
自分が1番幸せだった記憶はなんだろうかと考えてから、悩んでしまった。
幸せだと思った記憶は色々あるが、どれが1番幸せなのかわからない。
(私の1番の幸せだった記憶って何かしら·····)
「呪文はこうだ。エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」
「エクスペクト・パトローナム·····」
ハリーは小声で呪文を何度も何度も唱えていた。
「幸せな思い出に神経を集中してるかい?」
「ええ、はい。エクスペクト・パトロノ·····違った。すみません。エクスペクト・パトローナム、エクスペクト・パトローナム」
するとハリーの杖の先からは銀色の煙のようなものが浮かんでいた。
それを見たハリーはパッと顔を明るくさせてから、リーマスを見る。
「見えましたか?何か、出てきた!アリアネも見えたかい?」
「見えたわ!」
「よくできた。よーし、それじゃ、吸魂鬼ね練習してもいいかい?」
「はい」
ハリーは強く杖を握りしめて前に出る。
その様子をアリアネはまるで我が子を見守るような眼差しを向けて見ていた。
やがて、リーマスが箱の蓋に手をかけて引っ張って開けると、ゆらりと吸魂鬼が現れた。
相変わらずの暗いフードを被った顔、ヌメヌメと光る手。
アリアネは背筋が凍るのが分かり、息を小さく飲んだ。