第11章 忍びの地図【アズカバンの囚人】
ロンはゆっくりと椅子から立ち上がった。
「誰か気が動転してるとき、ママはいつもそうするんだ」
そう言いながらロンはぽかぽかとした熱めの紅茶を出してくれた。
ハグリッドは暫くすると落ち着いた様子を見せて、ハンカチで鼻をかむとやっと口を開く。
「おまえさんたちの言う通りだ。ここで俺がボロボロになっちゃいられねえ。しゃんとせにゃ·····」
「そうよ、ハグリッド」
「このごろ俺はどうかしとった。バックビークが心配だし、だーれも俺の授業を好かんし──」
「そんなことないわ!」
「そうよ!みんな、とっても好きよ!」
「ウン、すごい授業だよ!」
ハリー以外の3人は嘘をついてしまった。
その証拠にモジモジと指を動かしていたり、目をキョロキョロとさせている。
「あー、レタス食い虫(フロバーワーム)は元気?」
「死んだ。レタスのやりすぎだ」
「ああ、そんな!」
「それに、吸魂鬼のやつだ。連中は俺をとことん落ち込ませる」
ハグリッドは身震いした。
「『三本の箒』に飲みに行くたび、連中のそばを通らにゃなんねえ。アズカバンさ戻されちまったような気分になる」
ハグリッドはアリアネ達が2年生の時にアズカバンへと入れられている。
その話は今までハグリッドからは聞いたことがないが、ハーマイオニーが遠慮がちに聞いた。
「ハグリッド、恐ろしいところなの?」
「想像もつかんだろう。あんなとこな行ったことがねえ。気が狂うかと思ったぞ。ひどい想い出ばっかしが思い浮かぶんだ·····ホグワーツを退校になった日·····親父が死んだ日·····ノーバートが行っちまった日·····」
ハグリッドの瞳に涙が溢れはじめる。
「しばらくすっと、自分が誰だか、もうわからねえ。そんで、生きててもしょうがねえって気になる。寝てるうちに死んでしまいてえって、俺はそう願ったもんだ。·····釈放されときゃ、もう1度生まれたような気分だった。いろんなことが一度にどぉっと戻ってきてな。こんないい気分はねえぞ。そりゃあ、吸魂鬼のやつら、俺は釈放するのはしぶったもんだ」
「だけど、あなたは無実だったのよ!」
「連中の知ったことか。そんなこたぁ、どーでもえて。2、300人もあそこにぶち込まれていりゃ、連中はそれでええ」